PHAのモノマー配列制御に世界で初めて成功!
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は、バイオマスを原料として合成可能であり、優れた生分解性を示す有望な材料です。しかし、一種類の材料では多くの用途に対応できません。例えば、石油由来のプラスチックでも、ポリエチレン、PET、ナイロンなどのように、多様なポリマーが合成され、それぞれの目的に利用されます。同様に、バイオベースプラスチック、生分解性プラスチックも多様な物性を持つポリマーを生産することで、より多くの用途に使えるようになります。
したがって、PHAの分子構造を変えていろいろなポリマーを合成できるようにする技術は、PHAの利用拡大のために重要な課題です。これまでのPHA研究では、天然で合成可能なポリマー構造を組み合わせて、物性を調整することが行われてきました。それに対して私たちは、天然では合成されない人工的な構造を持つポリマーの合成に取り組んでいます。別の頁で紹介しているグリコール酸ポリマーも、非天然型PHAの一種です。
ポリマーの構造はモノマーの化学構造だけによって決まるのではありません。その重合する順番(モノマー配列)を変えることで、性質の異なる様々なポリマーが得られます。既存のPHAは、二種類以上のモノマーが共重合すると、ランダム共重合体のみが得られ、モノマー配列を制御することが出来ませんでした。しかし、最近私たちは、モノマー配列を制御してブロック共重合体を作る方法を見つけました。この方法を用いると、同一分子内で物性の異なるポリマーを作ることが出来ます。下の図はその一例ですが、硬い物性のポリマーと柔らかい物性のポリマーがつながった構造を合成しました。そのポリマーの表面を原子間力顕微鏡で観察したデータが右側の写真です。このイメージは、色の明るいところが柔らかいポリマーであることを示しています。一つの領域の大きさは20 nmくらいですので、ナノスケールの構造ができていることがわかります。このようなナノ構造に起因して、特徴的な物性を発揮することが期待されます。同様の構造は、化学合成ポリマーでは多く研究されていますが、生合成されるPHAでは初めての例です。私たちは、この仕組みを発展させて、従来の材料を超えるポリマーを創り出すことを目指しています。
天然には存在しない酵素反応を創り出したい
この際に、最も重要な因子となるのが、ポリマー合成に関与する酵素、とくに重合酵素、の機能です。天然の酵素は合成できるポリマーの構造に限界があります。そこで、酵素工学的手法を用いて、酵素の基質特異性を拡張し、様々な非天然構造を合成することに取り組んでいます。上記の、グリコール酸ポリマーや配列制御性を有するポリマー合成も、改変型の重合酵素により実現しました。
もう一つ重要な課題があります。それは、モノマー配列がどのようにして生じるのか、その仕組みを解明することです。例えば、DNAの複製では極めて精密な配列制御が行われます。これは、鋳型となるDNAの配列を「コピー」することによって達成されます。RNAやタンパク質など、類似の原理で配列制御されるバイオポリマーは多くあります。一方、上述のブロックPHAでは、お手本になる鋳型分子が存在しません。では、PHAの配列はどのように生じるのでしょうか?何らかの自己組織化機構が存在すると考えられます。これを解明することで、さらに高度な生物合成が可能になると期待しています。