光合成とは
光合成は、光のエネルギーを利用して水と二酸化炭素から有機物を合成します。言うまでもなく、地球上の生命活動を維持するうえで最も重要な反応です。植物で非常に発達していますが、細菌にも光合成能力を持つものがいます。光合成は、どのような仕組みで二酸化炭素を有機物へ変換するのでしょう?なんとなく、二酸化炭素分子に光が当たってエネルギーが与えられるのかなと思っていませんか?実は、光合成では、光エネルギーを受容して化学エネルギーに変換する光化学系と、二酸化炭素を有機物に変換するカルビンサイクルと呼ばれる経路は別のシステムです。ですので、一部の微生物は、光が無くても炭酸固定ができます。使用する還元力は、水素や鉄など様々です。
二酸化炭素が有機物に変換される反応を触媒するのは、 Ribulose 1,5-bisphosphate (RuBP) carboxylase/oxygenase (RubisCO)という酵素です。この酵素はRuBP(炭素数5)とCO2から3-phosphoglycerate(炭素数3)を2分子生成します。つまり、炭素数に着目すると、5+1=3×2という反応です。この反応は、ATPなどのエネルギー供給なしに進行します。CO2の固定化反応そのものはエネルギーがいらないのです。なぜそんなことが可能かというと、この反応がRuBPの炭素ー炭素結合を切る代わりに、新しい炭素ー炭素結合を生じる反応だからです。等価交換というわけです。 3-phosphoglycerate からRuBPを合成するためにはエネルギーが必要なので、当然ながら炭酸固定はエネルギーがないと進みません。
光合成の副反応を逆に利用する
RubisCOの反応は地球の生命の心臓部ともいえるのですが、この反応には大きな問題があります。それは、大気中には二酸化炭素と構造が類似している酸素分子が大量に存在することです。大気中の二酸化炭素濃度は、上昇したとは言っても400 ppmくらいしかありません。一方、酸素は20%も存在します。RubisCOはこの大量にある酸素を避けながら二酸化炭素と反応するという非常に高度なことをやっているのです。しかし、一部のRuBPは酸素と反応してしまいます。この場合に生成するのが、2-phosphoglycolate (2PG)という物質で、グリコール酸がリン酸化されたものです。多くの光合成の研究者は、2PGの生成が光合成の効率を低下させるとして、これを発生させないための研究を行っています。一方我々は、グリコール酸がポリエステルへと変換可能な構造を持っていることに着目しました。RubisCOをポリマー合成のために使えないかと考えたのです。
このアイディアを検証するため、RubisCOを含む炭酸固定の代謝経路(カルビンサイクルの一部)を我々がポリマー合成に用いている大腸菌に導入しました。これで、光合成生物の代謝の一部を持っている変な大腸菌ができました。上に説明したように、カルビンサイクルは光が無くても動きます。大腸菌の細胞内で、カルビンサイクルを動かして、グリコール酸が作れるか試しました。その結果、量は非常に少ないものの、グリコール酸が合成され、ポリマー合成にも成功しました。現在は、本経路の効率改善に取り組んでいます。